
近年、消費の主役として注目されるZ世代。1990年代後半から2010年代初頭に生まれた彼らは、デジタルネイティブとして育ち、従来の消費とは異なる価値観をもとに行動しています。
特に「体験」に重きを置いた購買行動は、企業のマーケティング戦略を大きく変えつつあります。
本記事では、Z世代の価値観を紐解き、体験価値が経済を動かすメカニズムと企業の成功事例、そして今後の戦略について解説します。
1. Z世代が重視する「体験」とは
Z世代はモノよりコトを重視する「コト消費」志向が強いとされます。情報過多の社会で育った彼らは、何を所有するかよりも、何を経験し、誰と共有するかに価値を見出しています。
SNSを通じて体験を「発信」することが日常化し、その行為自体が消費の満足度に影響を与えるようになりました。また、Z世代は「世界観」や「ストーリー性」に共感する傾向が強く、ただの製品ではなく、それにまつわる背景やメッセージが購買行動を左右します。
環境配慮やジェンダー平等といった社会的メッセージを重視する層も多く、企業は単なる機能価値ではなく、共感を得る体験価値の提供が求められています。
2. なぜ体験が「価値」になるのか
では、なぜ体験が価値とみなされるのでしょうか。体験が重視される背景には、実は以下のような心理的や社会的要因があります。
- FOMO(Fear of Missing Out):「みんなが体験していることを逃したくない」という心理です。具体的には、最新情報や他の人の行動に追いつけないと、社会的に置いてきぼりになり不安や恐怖を感じるという状態です。
- 自己表現欲求:「自分らしさを体験に込めて発信したい」という意識です。自分の才能や感情などを、行動や芸術、言葉などの手法で表現したいという欲求で、他者からの注目や承認が欲しいという状態のことです。
- ソーシャルキャピタル:「SNS上での評価・共感が財産になる」という価値観です。他社や企業に対しての期待感や信用、共同体において共有されるルール、そして資源や情報などを共有することで相互支援ができる繋がりのことです。
さらに、Z世代は“トライブ”的な小規模コミュニティとのつながりを重視し、その中での体験の共有が絆を深める要素として機能します。体験は単なるサービスの享受ではなく、個人のアイデンティティ形成にも直結しているのです。
3. 体験価値を軸にした成功事例
Z世代の心をつかむには、彼らの世界観に寄り添う体験設計が不可欠です。以下の事例はその代表的な成功例です。
- 日産「ニッサンインパルス」:Z世代との共創によるコンセプトカー開発で話題になりました。
- 資生堂のオンラインパーソナライズコスメ:肌診断・接客・商品が連動した体験が好評です。
- JTB・ANAの「推し旅」:ライブイベント×旅行体験を融合させた商品がZ世代に刺さっています。
- IKEAのインスタライブ学生部屋改造:視聴者参加型の演出で話題となりました。
- StarbucksのSNS投稿連動プロモーション:カスタマイズしたドリンクと「自分らしさ」の共有を促進しています。
これらの共通点は、「参加性」「パーソナライズ性」「SNS拡散性」を組み込んでいることです。Z世代は受動的な体験よりも、能動的に関われる体験を評価しています。
4. デジタルが広げる「拡張体験」
Z世代にとっての体験は、リアルな空間にとどまりません。AR・VRを活用したバーチャル試着、3D空間でのイベント、バーチャルライブなど、「デジタル体験」も主力消費の一部となっています。
例えば、メタバース内でのライブやEC連携イベント、アバターを通じたブランド体験などがZ世代に響いています。また、TikTokでは企業チャレンジ企画に参加することが体験価値となり、ブランド接触の入口にもなります。
このような“拡張体験”は、従来のO2O(Online to Offline)ではなく、完全に融合したO+O(Online + Offline)型のマーケティングを企業に求める時代の到来を意味します。
5. 企業が取るべきマーケティング戦略
Z世代に響く体験価値を届けるには、以下の4つのポイントが重要です。
- 共感性のあるブランドメッセージ
押し売りではなく、「自分と価値観が似ている」と思わせる設計。 - 発信を促すストーリーテリング
体験の中に「語りたくなる物語」があることが拡散の鍵。 - 個別最適化
パーソナライズされた商品や体験が、Z世代のロイヤルティを高めます。 - リアルな声の活用
インフルエンサーや実ユーザーの体験談を取り入れ、「等身大の声」を可視化する工夫が求められます。
単なる広告ではなく、Z世代が自発的に「共感し、体験し、発信したくなる仕掛け」が、これからのマーケティングの軸になるでしょう。
まとめ
Z世代は、物質的な所有よりも、体験を通じた自己表現や共感、共有を重視します。彼らの消費行動は、SNS・トライブ・パーソナライズといったキーワードと強く結びつき、企業にとっては単なる製品提供から“体験設計者”への進化が求められています。
「共感 → 体験 → 拡散 → 信頼」というサイクルを理解し、企業はそれに対応するマーケティング戦略を構築する必要があります。Z世代の「体験価値型消費」を捉えることは、今後の経済成長と持続的なブランド構築に直結する要素となるでしょう。
参考文献
デロイト トーマツ「2024年度 国内Z世代意識・購買行動調査」
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/consumer-business/articles/cp/generationz-behavior-survey.html
電通PRコンサルティング「Z世代トレンド:400人調査で判明!消費行動のカギは『自分軸』と『信頼感』」
https://prx.dentsuprc.co.jp/blog/generation_z_research
PR TIMES「Z世代の常識:モノ消費からコト消費へ!ReBearとOshicocoが『決済手段と消費行動の多様化』について合同調査を実施」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000105.000095735.html
博報堂「生活者体験価値からのブランド開発。味の素(株) Z世代事業」
https://www.hakuhodo.co.jp/magazine/108287/
KPMGジャパン「Z世代の価値観に基づいた消費行動の特徴」
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2023/11/generationz-marketing-01.html