仕事に追われる日々の中で、子どもの送り迎えや介護の時間をどう確保するか悩む人は少なくありません。特に30〜45歳の働き盛り世代にとっては、キャリア形成と家庭生活の両立が大きなテーマとなります。近年注目されるDEI（ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン）マネジメントは、多様な従業員を尊重し、公平で包括的な環境を整える考え方です。この記事では、信頼できる研究や企業事例をもとに、家族との時間を尊重する職場改善の実践方法を解説します。

1. DEIマネジメントとは何か―職場改善の新たな視点

1-1. DEIマネジメントの基本概念

DEIとは、Diversity（多様性）、Equity（公平性）、Inclusion（包括性）の略称です。従業員の違いを受け入れ、それぞれが公平に評価され、安心して働ける組織文化を築くことを意味します。これは人事の施策にとどまらず、企業経営における持続可能な戦略として重要視されています。

日本企業でも、女性活躍や外国人雇用に加え、育児や介護といった家庭と両立できる環境整備が注目されています。単に福利厚生を増やすのではなく、社員が長く安心して働ける仕組みをつくることがDEIマネジメントの本質です。

1-2. 家族との時間を尊重する必要性

厚生労働省の「働き方・休み方改革 取組事例集」によれば、従業員が「家族との時間を十分に取れる」と感じている企業は離職率が低く、仕事の集中度も高い傾向があります。

2007年に行われた、高知大学の森田美佐教授の研究でも、制度が実際に利用されている企業ほど従業員の満足度や業績が向上していることが確認されています。家族時間の尊重は、従業員の生活の質を高めるだけでなく、組織全体の競争力を強化する要素でもあるのです。

1-3. 日本企業の取り組み動向

丸紅株式会社は、法定を超える休暇制度や完全リモートワークを導入し、家族との時間を確保しやすい環境を整備しました。パナソニックグループは、週休3日制や副業制度を導入し、従業員が生活スタイルに合わせて働ける選択肢を広げています。さらに花王グループは、心理的安全性を高める文化づくりやアンコンシャスバイアスへの対応を通じ、家庭と仕事の両立を支える組織風土を築いています。

1-4. 読者にとっての実践意義

30〜45歳世代は、住宅ローンや子育て、キャリア転換など多くの課題を同時に抱えています。DEIマネジメントに基づく職場改善は、「仕事で成果を上げながら家族時間を守れる」という安心感を提供します。これは収入や昇進だけでなく、家庭の安定や自己実現にも直結する重要なポイントです。

2. 家族との時間を尊重する制度と実践事例

2-1. 休暇制度と柔軟な働き方

家族時間を確保するための代表的施策は、育児休暇や短時間勤務制度です。丸紅では、男女を問わず育児休暇を取りやすい環境を整え、転居への対応として完全リモートワークを導入しました。

また、パナソニックでは、週休3日制や社内副業の仕組みを整え、従業員が家庭の事情に合わせて柔軟に働ける体制を実現しています。これにより、家庭とキャリアの両立がしやすくなっています。

2-2. ファミリーデーやコミュニケーション施策

DeNAが導入しているファミリーデーは、従業員の家族を職場に招く取り組みです。家族が職場を理解することで、社員への応援意識が高まり、本人の働きやすさが向上します。このような施策は精神的な支えとなり、仕事と家庭の両立を現実的にサポートします。

2-3. 成果を裏付ける研究データ

2007年に行われた、学習院大学の脇坂明教授たちの分析では、ファミリーフレンドリーな制度を持ち性別平等が進んでいる企業ほど、従業員1人あたりの利益や売上が高い傾向が示されています。

また、2023年に行われた、RECORDsの高橋正也たちの研究では、在宅勤務が家庭内の葛藤に影響する可能性を指摘しました。これらの知見は、制度設計にあたり、心理的な側面や家庭内調整も考慮する必要があることを示しています。

2-4. 地域に根差した取り組み

地域的な取り組みとしても、企業と自治体が連携し、働き方改革やワークライフバランス推進を支援しています。厚生労働省の事例集でも、地方企業が自主的に制度改善を進めることで効果を上げている例が報告されています。

製造業の一部では、時短勤務やフレックスタイム制を導入し、従業員が家庭行事や子育てに参加しやすい環境を整えています。これらの地域事例は、大手企業だけでなく中堅・中小企業にとっても実践可能なモデルとして参考になります。

3. 成功と失敗から学ぶ職場改善のポイント

3-1. 成功事例に見る要因

成功している企業は、制度の整備だけでなく管理職の理解を深め、組織文化を変えてきました。リコージャパンは「イクボス宣言」によって上司が率先して制度を肯定的に扱い、部下が安心して利用できる雰囲気をつくりました。丸紅のように制度をわかりやすく周知し、社員に「使いやすさ」を実感させる仕組みも効果的です。

3-2. 失敗事例に潜む落とし穴

制度があっても「職場の空気的に使いにくい」と感じれば利用は進みません。森田氏の研究では、形骸化した制度が従業員に逆に不満をもたらす例が示されています。さらに在宅勤務は柔軟性を高める一方で、高橋ら（2023）の調査が示すように家庭内摩擦を増やす可能性があります。制度の点検と改善を怠ると、利用率が下がり本来の効果を発揮できません。

3-3. 改善に向けた具体的アプローチ

職場改善には「仕組み」「意識」「継続性」の三つが必要です。まず仕組みとして柔軟な勤務制度を整え、意識面では上司や同僚が制度利用を肯定する文化を醸成することが大切です。そして継続性の観点からは、定期的に利用状況を確認し、従業員の声を反映させる仕組みをつくることが重要です。厚生労働省の事例集も、社員の声を取り入れた改善が成果につながるとしています。

3-4. 読者ができる第一歩

地方の企業でも、柔軟な働き方やワークライフバランス推進が少しずつ広がっています。読者が管理職であれば、自ら制度を利用し模範を示すことが部下の後押しになります。若手や中堅社員なら、同僚と制度利用について意見を交わすことで心理的ハードルを下げられます。家庭を持つ人は、まず家族と次回の休暇や勤務形態について話し合うことから始めてみましょう。小さな実践が大きな変化を生み出すのです。

まとめ

DEIマネジメントに基づいた職場改善は、家族との時間を守りつつ働ける環境を築くための有効な方法です。管理職の理解や制度の柔軟性が成功の鍵となり、形だけの導入では不満を招きます。だからこそ、読者一人ひとりが職場環境を見直し、小さな行動を積み重ねることが重要です。例えば次回の有休を家族と計画する、上司に5分相談するなどの一歩は、家庭の安定と組織の成長の両立につながります。家庭と仕事を大切にする姿勢は、個人の幸福度を高めるだけでなく、組織の持続的な競争力を育む礎になるのです。

参考文献

丸紅株式会社「ダイバーシティ・マネジメント」 https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/27/
パナソニックホールディングス「多様な働き方の実践例」 https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/diversity-equity-inclusion/support-worklifebalance/work-styles.html
森田美佐『日本における“ファミリーフレンドリー”企業の課題』日本家政学会誌（2007） https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej/58/3/58_3_119/_pdf
Wakisakaほか「Work-Life Balance Policies and Corporate Performance」日本労働レビュー（2007） https://www.jil.go.jp/english/JLR/documents/2007/JLR16_all.pdf
厚生労働省「働き方・休み方改革 取組事例集」 https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category1/0101012.pdf
高橋ら「在宅勤務が家族関係に与える影響の分析」ResearchGate（2023） https://www.researchgate.net/publication/371958379_Understanding_Familial_Conflict_Issues_of_Working_from_Home_on_Japanese_White-Collar_Workers_in_Central_Tokyo
花王グループ「インクルーシブ文化の育成」 https://www.kao.com/global/en/sustainability/walking-the-right-path/inclusive-diverse/dei/workplaces/fostering-an-inclusive-culture/