所得税や住民税は、毎日の生活に直結する大きな負担です。特に子育て世代や住宅ローンを抱える世帯にとっては、少しでも手取りを増やすことが家計改善に結びつきます。こうしたときに頼りになるのが「所得控除」です。所得控除は、課税対象となる所得を減らす仕組みであり、工夫して活用すれば大幅な節税につながります。
近年は税制改正によって制度が複雑化していますが、逆に言えば最新の仕組みを理解することで、以前よりも大きな恩恵を受けられる可能性があります。本記事では、2025年度(令和7年度)税制改正で導入された新たな控除制度や、iDeCoなど既存制度の活用法をわかりやすく解説します。

1. 所得控除の基本を理解する:最新改正のポイント
1-1. 所得控除とは何か
所得控除とは、所得税や住民税を計算する際に、収入から一定の金額を差し引ける制度です。控除後の金額を課税所得と呼び、この課税所得に税率を掛けることで最終的な税額が決まります。控除が多ければ税金は減り、手取りが増えます。
代表的な控除には「基礎控除」「扶養控除」「配偶者控除」「社会保険料控除」「医療費控除」「生命保険料控除」などがあります。家族構成や働き方に応じて控除額が変わるため、自分の状況を確認しておくことが大切です。
1-2. 令和7年度税制改正のポイント
2025年の税制改正で大きく変わったのは次の3点です。
1つ目は基礎控除額の引き上げです。 従来48万円だった基礎控除額が、最大58万円へ拡大しました。所得が高いほど段階的に縮小されますが、年収が中程度の世帯には大きなメリットです。
2つ目は給与所得控除の最低額見直しです。給与所得控除の最低額が55万円から65万円に引き上げられました。パートや副業など多様な働き方にも有利な制度となっています。
3つ目は特定親族特別控除の新設です。19歳から23歳の子どもなど、これまで対象外だったケースでも新たに控除が受けられるようになりました。教育費負担の軽減に直結します。
1-3. 具体例で見る節税効果
例えば年収500万円の会社員世帯では、基礎控除58万円と給与所得控除65万円を合計し、123万円が課税対象から差し引かれます。これにより、年収水準によっては年間2〜3万円の減税効果が得られます。年収800万円の共働き世帯では、控除の恩恵により配偶者が年収150万円程度まで働いても「働き損」になりにくい状況となり、家計全体の手取りが増えやすくなります。
1-4. 新制度導入で注意すべき点
改正によって控除額は拡大しましたが、すべての世帯に一律で恩恵があるわけではありません。合計所得が2,400万円を超える場合、基礎控除は段階的に減少し、最終的にゼロとなります。また、給与所得控除も高所得者ほど上限額が設定されているため、全員が最大のメリットを享受できるわけではないのです。したがって、自分や配偶者の年収を照らし合わせ、どの程度控除が適用されるかを事前に確認することが必要です。
さらに、制度を知らずに年末調整や確定申告で申告を忘れると、本来受けられるはずの控除が適用されず、結果として税金を多く払ってしまうことになります。例えば、扶養控除や配偶者特別控除は収入の境目を少し超えるだけで金額が変動するため、収入管理を怠ると数万円単位で損をするケースもあります。こうしたリスクを避けるために、給与明細や源泉徴収票を定期的に確認し、必要に応じて税務署や専門家に相談することが推奨されます。
2. 基礎控除・給与所得控除の見直しと活用戦略
2-1. 控除拡大による家計への影響
基礎控除と給与所得控除の金額引き上げは、家計に直結する節税効果をもたらします。年収ごとに試算すると、中間所得層ほど効果が大きいことがわかります。例えば子育て世帯では、控除によって教育費や住宅ローン返済に充てられる余裕資金が増えるケースも多いです。
2-2. 共働き世帯に有利なポイント
これまで「103万円の壁」や「130万円の壁」に悩んでいた家庭でも、新制度により「160万円の壁」へとシフトし、働き方の選択肢が広がりました。副業を始める人や短時間労働を増やす人にとって、控除が収入アップを後押しする形となっています。
2-3. 実践的な活用法
控除を最大限に活かすには、年末調整や確定申告で正しく申告することが欠かせません。副業やフリーランス収入がある場合は、自分で確定申告を行う必要があります。申告の際は基礎控除や給与所得控除に加え、医療費控除や社会保険料控除も組み合わせると効果的です。
3. iDeCoや保険料控除を活かした多面的な節税手法
3-1. iDeCoの三重メリット
iDeCoは掛金が全額所得控除となる上、運用益は非課税、受取時も退職所得控除や公的年金控除が適用される三重のメリットがあります。たとえば毎月1万円を積み立てれば、年間12万円が控除されます。長期的に見れば老後資金を形成しながら節税できる仕組みです。
3-2. 保険料控除の効果
生命保険や医療保険に加入している人は、支払った保険料に応じて控除を受けられます。年間8万円以上の支払いで最大4万円の控除が可能です。地震保険料控除も併用でき、自然災害への備えと節税を両立できます。
3-3. 複合的な節税シナリオ
例えば、会社員がiDeCoに加入し、生命保険に年10万円、地震保険に年2万円を支払う場合、20万円以上の控除が得られます。課税所得が減れば住民税も同時に軽減され、ダブルの効果を実感できます。
4. 年末調整と確定申告で漏れを防ぐチェックリスト
4-1. 年末調整の重要性
年末調整は会社員にとって最も身近な節税の機会です。住宅ローン控除や保険料控除などを正しく申告することで、払いすぎた税金が還付されます。会社の案内だけに頼らず、自分でも最新情報を確認することが重要です。
4-2. 確定申告でできること
副業や医療費控除、ふるさと納税を行った場合は確定申告で控除を適用できます。最近はe-Taxやスマートフォン対応が進み、手続きのハードルも下がっています。
4-3. 確認すべきポイント
まず住宅ローン控除の初年度申請を済ませます。その後、医療費や薬局の記録、ふるさと納税の証明書、保険料控除証明書を揃えておくことが大切です。
まとめ
所得控除は家計を守り、将来設計を支える戦略的な仕組みです。基礎控除や給与所得控除の拡大は中間所得層や共働き世帯に恩恵をもたらし、iDeCoや保険料控除と組み合わせれば年間数十万円の節税も可能です。重要なのは年末調整や確定申告で正しく申告し、控除漏れを防ぐことです。例えば基礎控除の拡大だけでも数万円の効果があります。今日からできる準備を整え、最新制度を自分の生活に取り入れていきましょう。行動を先延ばしにせず、今年の年末調整から実践することが第一歩になります。
参考文献
国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
財務省「令和7年度税制改正大綱」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/07taikou_01.htm
OBC「2025年(令和7年)年末調整の変更点と実務対応」
https://www.obc.co.jp/360/list/post461
TKC「年収の壁見直しによる実務影響」
https://www.tkc.jp/lp/income-wall/
iDeCo公式サイト「税制優遇の仕組み」
https://www.ideco-koushiki.jp/guide/good.html
やよい株式会社「基礎控除とは?」
https://www.yayoi-kk.co.jp/shinkoku/oyakudachi/kisokojo/


