経理業務は企業や個人事業主にとって欠かせない作業ですが、膨大な事務処理や正確性の確保が大きな負担となっています。特に仕訳や確定申告は、毎年の中でも時間と労力を要する業務の一つです。近年はクラウド会計ソフトやAI技術の進化によって、これまで人が担ってきた作業を効率化する仕組みが急速に広がっています。

この記事では、AI仕訳の仕組みと導入ステップ、確定申告効率化の方法、経理自動化のメリットとリスク管理について解説します。

1. 経理自動化の必要性とAI導入の現状

経理自動化が注目される背景には、人手不足と業務量の増加があります。経理担当者が限られている中で、請求書処理や仕訳、帳簿管理に多くの時間が割かれています。AIやクラウド会計ソフトを導入すれば、単純作業をシステムに任せ、人は確認や戦略的な分析に集中できる環境が整います。

例えば、AI-OCRを利用すると、領収書や請求書をスマートフォンで撮影するだけで自動的にデータ化され、仕訳候補が提示されます。ある中小企業では、従来月に20時間以上かかっていた仕訳作業が8時間程度に短縮された事例もあります。この効率化は時間の節約だけでなく、決算や確定申告に必要なデータを平常時から整備できるため、期末の負担を大きく減らす効果をもたらせるでしょう。

また、AIによる仕訳は属人化のリスクを減らす点でも有効です。従来は担当者の経験に依存していた判断をAIが基準化することで、一貫性のある帳簿を維持できます。これにより、監査や金融機関との取引において信頼性が向上し、資金調達にもプラスの効果を与えます。

ただし、すべてを完全に自動化できるわけではありません。特殊な取引や新しいビジネスモデルには対応しきれない場合があり、導入初期には人の確認が不可欠です。修正を繰り返すことでAIは学習し、徐々に精度が高まります。

個人事業主や副業を行う人にとっても経理自動化は有効です。例えば、ハンドメイド販売を行うAさんは、AI仕訳を導入したことで月末の帳簿整理に費やす時間が半分以下になり、その分を商品企画や顧客対応に充てられるようになりました。限られた時間で成果を出したい層にとって、自動化は大きな支援となります。

2. AI仕訳の仕組みと導入ステップ

AI仕訳は、取引データを自動で勘定科目に振り分ける仕組みです。過去の仕訳履歴や一般的なパターンを学習し、銀行口座やクレジットカードの取引を自動処理します。例えばオフィス用品購入では「消耗品費／未払金」と仕訳候補が提示され、担当者は確認と微調整だけで済みます。

導入は、「口座やカードをクラウド会計ソフトに連携」、「取引データを自動取込」、「AIの仕訳候補を人が確認・修正」、「数週間～数か月で精度向上」という流れです。この過程で自社向けルールが構築されます。さらに電子帳簿保存法への対応も重要で、AI-OCRと組み合わせることで領収書・請求書を法的要件に沿って電子保存できます。

調査では検索性や保管コスト削減の効果が報告されています。加えて、不正検知機能により異常取引を早期発見し内部統制を強化できます。少人数の経理体制を持つ中小企業にとっても信頼性向上に直結し、単なる効率化にとどまらず、制度対応とリスク管理を支える基盤となります。

3. 確定申告を効率化するAI活用法

AIの導入は、確定申告の効率化にも直結します。領収書や請求書を撮影するだけでデータ化され、勘定科目に振り分けられるため、年末にまとめて作業する必要がなくなります。

クラウド会計ソフトには、青色申告や白色申告に対応した自動作成機能が搭載されています。最新の税制改正に合わせた更新も行われるため、法令に準拠した申告書を作成可能です。さらにe-Taxと直接連携すれば、オンラインで申告を完了でき、税務署に足を運ぶ必要もなくなります。

ただし、控除や特例の適用は利用者自身の判断が必要な部分です。医療費控除や住宅ローン控除などは、AIだけで完全に判断できるものではありません。したがって、最終的な確認は人が行うことが不可欠です。AIの効率化と人の判断を組み合わせることで、正確で安心な申告を実現できます。

4. 経理自動化のメリットとリスク管理

経理自動化のメリットは、作業時間の削減、精度の向上、経営判断の迅速化にあります。AIを活用すれば、これまで手作業で行っていた領収書処理や仕訳を大幅に効率化でき、人は本来の業務に集中できます。また、帳簿が常に最新の状態に保たれるため、資金繰りの把握や経営戦略の立案にも役立ちます。

一方で、リスクも存在します。AIは学習データに依存するため、誤った仕訳が提示される可能性があります。システム障害や通信エラーといったリスクもあるため、定期的なバックアップや確認体制を整えることが重要です。

さらに、従業員がAIに依存しすぎると経理知識が育たない懸念があります。そのため、導入と並行して教育や研修を行い、人とAIが協働できる環境を整えることが必要です。

まとめ

経理自動化は、企業や個人事業主にとって効率と正確性を同時に高める有効な手段です。AI仕訳を活用すれば日常の処理がスムーズになり、確定申告までの流れも整います。導入初期には人の確認を重ねることで精度が高まり、信頼性も確保できます。完全自動化に依存せず、リスク管理と教育を組み合わせることが成功の鍵です。まずはクラウド会計ソフトの無料トライアルを試し、領収書を一枚読み込む体験から始めてみてはいかがでしょうか。小さな一歩が未来の経理業務を大きく変えるきっかけとなります。

参考文献

マネーフォワード Bizpedia「経理業務にAIや生成AIを導入するとどう変わる？」
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/82569/

note「税務申告の自動化はどこまで可能？AI活用の現状と今後」
https://note.com/pleasure_7190/n/nda8e92959a89

ISID「経理AI自動化完全ガイド」
https://isjapan.co.jp/keiri-ai/

Room8「個人事業主AI経理自動化」
https://www.room8.co.jp/ai-accounting-automation-for-freelancers/

arXiv「E2E Process Automation Leveraging Generative AI」
https://arxiv.org/abs/2505.20733