日本の製造業で営業職として働くあなたは、自分の残業がどのように企業の利益や自身のキャリアに影響するか、漠然と考えたことがあるはずです。
残業は営業成果を追う中でやむを得ない面がありますが、働きすぎによるコストや、生産性の低下、さらには健康リスクまで含めると、その負荷は無視できません。
本記事では、最新データに基づく残業の実態、製造業特有の歴史的・組織的背景、営業部門が被る経済的コストと生産性の影響、そして営業現場で実践できる効率化策を具体的なステップとともに解説します。
この記事を読むことで、「残業をただ許容する」状況から、「残業を戦略的に減らし、利益と働き手の両方を守る」営業部門への転換に向けた道筋が見えるようになります。

製造業における残業の実態をデータで把握する
製造業の営業部門に残業がどれほど存在し、それがどのような構造で発生しているかを理解することが第一歩です。厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和5年分結果速報」によると、製造業を含む全産業で所定外労働(残業)は月平均13時間以上であるケースが多く、業種によっては20時間を超える企業も存在します。
また、OpenWorkの働きがい研究所が行う「日本の残業時間 定点観測」では、2023年4〜6月期の平均残業時間が23.43時間/月、7〜9月期が22.76時間/月と、製造業も含む全体でやや低下傾向が見られることが報告されています。これは「働き方改革」や上限規制の浸透が背景にあります。
製造業特有の平均残業時間を示すデータとして、求人情報サイト「JOBトリビア」によれば、製造業勤務者は年間残業平均180時間前後という調査結果があり、以前の193時間から減少傾向にあります。繁忙期や納期が迫る時期にはこの平均を大きく上回る残業が発生することも多く、営業部門にとっては見逃せません。
さらに、大和総研の報告「残業時間規制の効果検証と課題」では、残業時間の上限規制制度が導入されたことで、長時間労働の抑制に一定の成果が見られるとされています。営業部門でも、この規制によって「月45時間/年360時間」を基準とする働き方が制度として受け入れられつつあるという企業が増えています。
これらのデータから、営業としては自分や自部署の残業時間データと、業界平均・法制度の基準を比較することが重要であり、「自分がどの程度過剰か」を客観的に把握することが変革の第一歩になります。
残業文化が製造業で根強い歴史と組織的背景を理解する
製造業における残業文化は一朝一夕で形成されたものではありません。戦後の高度経済成長期には、納期・品質・顧客信頼のため、時間をかけてでも成果をあげることが美徳とされ、残業が組織の評価基準の一部になっていた経緯があります。
営業部門でも「顧客の要望対応=時間外対応」という前提が長く続いたことが、暗黙のルールとして残っています。組織制度の側面では、営業の目標設定やノルマが曖昧になりやすく、営業外業務が帰社後や休日に持ち帰られるケースが多いことが挙げられます。
営業外業務とは、例えば見積書準備・報告書作成・顧客対応後処理などで、これらは営業日中の業務時間に含められていないことがしばしばです。中小企業では人手不足のため一人が複数役割を兼ねることが多く、結果として残業が常態化しています。
また、法制度の整備も進んでいます。働き方改革関連法による「時間外労働の上限規制」が2019年4月に大企業に適用され、その後中小企業にも拡大しています。
制度の運用には課題がありますが、規制導入後のデータでは、平均残業時間や長時間残業する企業の割合が低下する傾向が確認されています。
ただし「特別条項付き36協定」を使って繁忙期に月100時間近く残業が発生するケースもあり、制度の抜け穴や運用の甘さが問題視されています。
さらに、働き方改革の経済効果を試算した研究では、2018〜2023年度における残業是正・女性雇用拡大・高齢者就業の進展などが総合的に潜在 GDP を1.7〜2.6%向上させる可能性があると示されています。
営業部門での残業削減は、個人のワークライフバランス改善だけでなく、企業・国レベルの成長にも資するテーマです。
営業現場で使える残業削減と効率化の具体策
営業部門で残業をただ減らすのではなく、利益を維持または向上させるための効率化が鍵です。以下に製造業営業部が取り組みやすい具体策を挙げます。
まずすべきは、どの営業活動が残業に繋がっているかを定量的に把握することです。営業報告、見積作成、契約後のフォローアップなど業務を細かく分類し、部門別・人物別・時間帯別に残業時間を集計します。
製造業特有ですが、営業担当でも「段取り」や資料準備・社内承認の遅延が残業を増やす大きな要因です。例えば、複数部署または複数承認が必要な見積書の承認フローを簡素化する、テンプレート化して入力ミスを防ぐ、資料のドラフトを定型化しておくなどが有効です。
勤怠管理システムの導入、電子帳票の活用、営業報告のモバイル化などは、残業時間を計測・共有・管理するための土台となります。制度導入後に時間外労働の観点で長時間労働が是正されつつあるという結果が報告されています。
営業部門は繁忙期・閑散期の波があります。見通し予測を精度よく行い、営業チーム内で応援体制を整える、交替制や異なる営業ルートの分担を見直すなどが有効です。法律上、働き方改革関連法により時間外労働の上限が原則として月45時間・年360時間と定められています。
営業部門もこの規制を前提として業務設計を見直す必要があります。特別条項付き36協定を使う場合でも、制度を守ることは企業リスクの低減になると同時に、営業の長時間労働による疲弊や生産性低下、採用や定着率の悪化を防ぐことにもなります。
改善策を決める際に経営層の意向だけではなく、営業現場からの意見を重視することが定着を左右します。現場が「これならできる」と思える改善を小さく始めること、成功事例を他拠点とも共有すること、評価制度に残業減や効率改善を反映させることが重要です。
経済的コストと生産性の低下の具体的影響
残業が営業部門及び企業全体に与える負荷は金銭的なコストだけではありません。以下は、製造業営業が知っておくべき影響の具体例です。
時間外手当や割増賃金などは、残業時間が多いほど利益を圧迫します。長時間労働は集中力の低下やミスの増加を招き、顧客信頼の低下につながります。さらに、夜間・休日の業務が新規顧客開拓や準備時間を奪い、機会損失となるケースも少なくありません。
過重残業によって営業担当者のモチベーションが低下し、転職や退職につながる可能性もあります。違反が発覚すれば法令遵守リスクやブランド毀損の危険も高まります。
まとめ
営業部門で働くあなたにとって残業文化を見直すことは、単なる働き方の改善にとどまらず、企業としての収益性やあなた自身のキャリア・健康に直結します。
最新統計では製造業の残業時間はやや改善傾向にあるものの依然として負荷が残るため、現状をデータで把握し、業務プロセスや承認フロー、デジタルツールの活用を検討することが不可欠です。
時間外労働の法令遵守を前提としつつ、現場の声を活かして改善を小さく始めれば、「利益を守る残業減」は十分可能です。
参考文献
毎月勤労統計調査 令和5年分結果速報|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r05/23cp/23cp.html
残業時間規制の効果検証と課題 大和総研
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20231004_023731.pdf
日本の残業時間 定点観測 OpenWork 働きがい研究所
https://www.openwork.jp/hatarakigai/teiten/zangyo
製造業の残業時間の平均はどれくらい?残業が多くなる理由や対処法|JOBトリビア
https://www.ikaijob.jp/trivia/interview/3568/
働き方改革の経済効果と今後の課題 大和総研
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20240724_030149.pdf


