働き方改革が進む今、労働契約書の理解力はキャリアを守るうえで欠かせません。特に契約社員やパートなど非正規雇用では、「条件が違った」と後悔しないために、一語一句の確認が重要です。

また企業側にも「同一労働同一賃金」や「無期転換ルール」など法的対応が求められ、不利な条件が紛れていることもあります。本記事では契約書の基本や注意点、キャリアアップ助成金との関係を解説し、読む力を高めることを目指します。

1. 労働契約書の基本構造と役割

1-1. 労働契約書とは何か

労働契約書は、企業と労働者が交わす雇用条件を明確に記した書面であり、働くうえでの取り決めを法律的に裏付ける役割を持ちます。労働基準法では、採用時に労働条件を明示することが義務化されており、その手段として「労働条件通知書」または「労働契約書」が用いられます。契約書には、必ず書かれるべき「絶対的明示事項」と、必要に応じて記載される「相対的明示事項」があります。前者には労働時間、賃金、業務内容などが含まれ、後者には退職金制度や賞与などが挙げられます。これらを確認することは、契約内容が法律に沿っているか、そして自身にとって不利益な条件がないかを判断するための重要な第一歩です。

1-2. 書面で確認すべき主要項目

労働契約書で必ず確認すべき項目には、契約期間、勤務地、担当業務、労働時間、休日、賃金形態などがあり、これらは日々の働き方に直結します。署名前には必ず内容を精査し、条件が自分の希望や生活に合っているかを確かめなければなりません。

特に「会社都合で変更あり」といった記載がある場合は注意が必要で、将来的に勤務条件が一方的に変えられる可能性もあります。納得できない点や不明点はそのままにせず、事前に確認・相談しておくことがトラブル防止につながります。

2. 正社員と非正規の違いを知る

2-1. 雇用形態による待遇の違い

正社員は期間の定めがなく、福利厚生や昇給制度も整っている一方、非正規雇用は有期契約で、待遇面に差が出やすい傾向が見られます。有給休暇の取りやすさや社会保険加入の有無も異なるケースがあります。

契約書上で「正社員登用制度あり」と書かれていても、実態が伴っていないケースもあるため、記載内容と会社の実績を両面で確認することが重要です。

2-2. 同一労働同一賃金と無期転換ルール

2020年施行の同一労働同一賃金制度により、非正規社員であっても、正社員と同一業務であれば同様の待遇が求められるようになりました。また、有期雇用が通算5年を超えると、無期雇用へ転換する権利も発生します。これらは契約書の記述に大きく関係するため、チェックを怠らないようにしましょう。

3. よくある契約書の落とし穴

3-1. 曖昧な表現に注意

「必要に応じて異動あり」「会社規定による」といった曖昧な記載は、勤務地変更や待遇変更のリスクを含んでいます。できるだけ詳細な条件が明記されているかを確認することが、トラブル防止につながります。

3-2. 賃金・手当・昇給の記載を見逃さない

「基本給」と「各種手当」の内訳、「賞与支給の有無」「昇給の可能性」などが明確にされていないと、不利益を被る可能性があります。とくに「みなし残業」や「裁量労働制」に関する記載がある場合には、その時間数や根拠にも目を通しておきましょう。

3-3. 想定外のトラブル例とその防止策

よくあるトラブルとして「更新ありとあったが、実際は契約終了」や「退職金制度があるように見えて、実際は不支給」などがあります。こうしたリスクを回避するには、契約書だけでなく就業規則や労働条件通知書も併せて確認し、疑問点は遠慮せず企業に質問する姿勢が重要です。

4. キャリアアップ助成金との関係

4-1. 正社員転換で活用できる制度

キャリアアップ助成金は、非正規社員から正社員に転換する企業に対し、厚生労働省が支給する制度です。助成金を受けるには、就業規則に正社員の定義や昇給条件などを明記し、契約書にも反映する必要があります。

4-2. 働き手にとってのメリット

助成金制度の利用は、単に企業側のメリットだけでなく、労働者にも恩恵があります。たとえば、昇給率の明示、社会保険の完備、雇用安定への道筋が整備されるため、安心して働き続ける基盤となるのです。

4-3. 読み解く力とキャリア形成の関係性

契約書を読めるようになることは、自分のキャリアを設計する力を得ることでもあります。転職の際には条件交渉の材料になりますし、企業の将来性や透明性も読み取れるようになります。読む力は、知識ではなく武器なのです。

5. まとめ

労働契約書は単なる書類ではなく、自分の働き方や将来のキャリアを左右する大切な情報が詰まったツールです。内容を正しく読み取り、自分に不利な条件や曖昧な表現に気づく力があれば、働く上でのトラブルを避け、より良い条件で交渉することも可能になります。契約書を読む力を身につけることは、キャリアアップの土台を築くうえで欠かせない知識の一つです。これからの働き方を主体的に選び取るためにも、法律知識を味方につけて、自分の未来を守りましょう。

参考文献

GMOサイン／契約社員の雇用契約書に記載する項目https://www.gmosign.com/media/work-style/keiyakusyain-keiyakusho/

altruloop／キャリアアップ助成金を満たす就業規則の書き方https://altruloop.com/column/careerup-grants/

小畑社会保険労務士事務所／就業規則に必要な項目
https://obata-sr.com/column/2953

バラスト社労士法人／令和7年度キャリアアップ助成金
https://ballast-sr.com/

助成金Tips／正社員化コースのポイント
https://joseikin-tips.com/

山上社会保険労務士事務所／有期雇用労働者の定義
https://sr-ky.net/news/202411-3929.html

厚生労働省／提出書類の要件https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000156654.html