製造業において研究開発は、競争力の源泉であり、持続的な成長を支える最も重要な要素です。しかし、開発投資には多額の資金が必要で、資金繰りや税負担が課題となる企業も少なくありません。そこで注目されているのが「研究開発税制」です。これは企業が行う試験研究費の一部を法人税から控除できる制度であり、特に中小製造業にとって強力な経営支援策となっています。この記事では、制度の概要と適用条件、そして実際に税負担を軽減しながら技術革新を実現した製造業の成功事例を紹介します。

1. 研究開発税制の仕組みと製造業が注目すべき理由
研究開発税制は、企業の技術革新を促進するために設けられた法人税の税額控除制度です。企業が支出した「試験研究費」の一定割合を法人税から直接差し引くことができます。
特に製造業においては、新製品の設計・試作、製造プロセスの改善、AIやIoTの導入による工程革新などが対象になることが多く、制度を活用することで資金負担を軽減しつつ次の技術投資につなげることが可能です。
また、中小企業には優遇措置も設けられており、控除率が最大25%程度まで拡大されるケースもあります。経済産業省の資料によると、令和5年度の適用企業の約7割が製造業であり、特に地方の中堅・中小企業が積極的に制度を活用しています。
さらに、研究開発税制は単なる節税策にとどまらず、「イノベーションを継続的に生み出す仕組み」としての側面も持ちます。自社内の研究テーマを明確化し、試験的な取り組みを体系化する過程で、企業の開発文化が育まれていくのです。
2. 税負担を軽減するための研究開発費の算定と適用条件
研究開発税制を活用するには、まず「試験研究費」の範囲を正確に把握することが重要です。経済産業省の定義では、新たな技術や製品を生み出すための研究・試験・実験にかかる費用 が対象とされています。
対象となる主な費用には「社員の研究開発に関わる人件費」、「実験や試作品製作に必要な材料費・委託費」、「研究設備の減価償却費や維持費」が挙げられます。
一方で、単なる品質改善や日常の生産工程の調整、営業活動などは対象外です。税制適用を受けるためには、研究目的・成果・技術的課題 を明確に説明できるよう記録を残しておくことが求められます。
また、控除率は企業規模や支出額によって異なり、中小企業では試験研究費総額の最大25%が税額控除として認められる場合があります。申請に際しては、経理担当と税理士が連携し、対象費用の仕分けを月次で整理しておくとスムーズです。
3. 成功事例|研究開発税制を活用して利益率を高めた製造業の実践
研究開発税制は、資金負担を抑えつつ技術革新を進めたい製造業にとって、非常に効果的な仕組みです。ここでは、実際にこの制度を活用し、事業拡大や利益率向上を実現した2つの企業事例を紹介します。
3-1. 金属加工メーカーの事例:AI切削機の開発で税負担を軽減
愛知県の中小金属加工メーカーでは、AI制御を活用した新型切削機の開発プロジェクトに取り組みました。開発費約1,200万円のうち、人件費や試作材料費を「試験研究費」として申告し、研究開発税制を適用。結果として約250万円の法人税を削減することに成功したのです。浮いた資金を次期モデルの改良費用に回したことで、翌年には製品化を実現し、新規受注が20%増加することで、売上と利益率の両方を伸ばすことができました。
3-2. 樹脂成形メーカーの事例:環境素材開発で研究効率を向上
関西地方の樹脂成形メーカーでは、環境対応型バイオ素材の開発において制度を活用しました。研究報告書や試験データを日常的に整理し、研究の目的・成果を明確化していたことが評価され、税務上の研究開発活動として認定されます。
結果、年間約400万円の税額控除を受けることができたのです。この資金を新しい実験装置の導入に充てたことで、開発スピードが約30%向上しました。
3-3. 成功企業に共通するポイント
これらの事例に共通しているのは、「明確な記録」「社内連携」「専門家への早期相談」の3点です。研究目的や費用の根拠を明確に残し、経理部門と技術部門が日常的に情報を共有している企業ほど、制度を正しく活用できています。
また、税理士や会計専門家に早い段階から相談していた点も共通しています。外部の専門知識を取り入れることで、認定漏れや計上ミスを防ぎ、より大きな節税効果を得ることができました。研究開発税制は、こうした日々の管理体制が整っている企業ほど、その恩恵を最大限に受けられる制度だといえます。
4. 制度活用のポイントと注意点
研究開発税制を最大限に活用するためには、制度理解だけでなく、日々の記録管理や部門連携が欠かせません。ここでは、申請時に特に重要となる3つの実務ポイントを整理します。
4-1. 「研究目的・成果・費用」を明確に示す
税務上の研究開発と認められるには、目的・方法・成果が一貫していることが必要です。単なる試作や改善ではなく、「技術的な課題を解決する研究」であることを示す必要があります。試験報告書や契約書、稟議書などを整理し、いつ・何のために行った開発かを説明できるようにしておきましょう。特に中小製造業では、業務改善との線引きを明確にすることで、認定の精度が高まります。
4-2. 経理部門と税理士の早期連携
研究費を製造原価や販売費と混同すると、控除の対象外になる恐れがあります。月次の段階から研究費を別勘定で管理し、税理士と情報共有しておくことが重要です。また、研究現場と経理担当が定期的に打ち合わせを行い、どの費用を研究費とするかを共通認識として持つことが、制度活用の成功につながります。
4-3. 制度改正情報の継続チェック
研究開発税制は毎年見直され、控除率や対象範囲が変わることがあります。経済産業省や税理士会などの公式発表を定期的に確認し、自社の研究テーマや計画と照らし合わせておくことが大切です。近年では「脱炭素化」「デジタル技術」などの重点領域が優遇対象となっており、制度動向を把握することで、より有利な適用を受けられる可能性もあります。
まとめ
研究開発税制は、製造業にとって技術革新と税負担軽減を両立できる制度です。研究費の一部を税額から直接控除できるため、資金効率を高め、次の開発や設備投資へとつなげられます。特に中小製造業では、限られたリソースの中で競争力を維持する手段として非常に有効です。
また、研究目的や費用の管理を徹底し、経理・税理士との連携を強化することで、制度を安全かつ効果的に活用できます。単発の節税ではなく、長期的な経営戦略の一環として制度を取り入れる姿勢が重要です。今後も政策トレンドを注視し、自社の研究テーマを社会課題や技術革新の方向性に沿わせていくことで、税制の恩恵を最大限に活かすことができるでしょう。
参考文献
- 「研究開発税制の概要と令和5・6年度の税制改正について」 経済産業省 https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/R6gaiyou_set.pdf
- 「研究開発税制について」 経済産業省 https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/about_tax.html
- 「研究開発税制について」 内閣官房 税制調査会 https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/7ebpm4kai2.pdf
- 「中小企業に大きな優遇!研究開発税制を活用して」 マネーフォワード クラウド https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/14336/
- 「研究開発税制をめぐる有効性の検証と評価」 税法学会 https://zeihogakkai.com/press/files/580/043-062.pdf


