近年、副業として不動産投資を始める人が増加しています。「会社員のうちに安定収入を確保したい」「将来の年金対策に家賃収入がほしい」という想いから不動産投資に目を向ける方も多いでしょう。
しかし、不動産投資は他の副業と違い、数百万円単位の初期投資が必要であり、物件を買って終わりではありません。運用には時間と知識、そして継続的な資金が求められます。うまくいけば資産形成につながりますが、安易に始めてしまうと大きな損失を被る可能性もあるのです。
本記事では、不動産投資を副業として考える際に見落とされがちな「時間」と「お金」の落とし穴を、3つの視点から解説します。
1. 時間を奪う不動産投資の実態
副業というと「本業の合間にできる」「自動的に収入が入る」といったイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、不動産投資は『投資』であると同時に『経営』でもあるという認識が必要です。
例えば、東京都内で1棟アパートを保有している30代の会社員男性は、「副業で始めたものの、月に10〜15時間は物件の管理や対応に追われている」と話します。入居者の退去が発生すれば、募集から契約まで数週間を要し、その間の家賃収入はゼロになります。また、水漏れや鍵の紛失といったトラブル対応も避けては通れません。
仮に管理会社に委託したとしても、すべてを丸投げできるわけではなく、修繕の判断や契約更新など、最終決定はオーナー自身が行う必要があります。そのため、本業が多忙な会社員が副業感覚で始めると、時間的な負担が想定以上になり、ストレスを感じるケースが多々あります。
物件購入前の準備段階でも、多くの時間を要します。収益シミュレーションやエリア分析、金融機関との融資交渉、そして現地調査など、やるべきことは山ほどあります。こうした準備を怠ると、購入後に後悔するリスクが極めて高くなります。
2. 想定外コストに泣く初心者たち
空室リスクと想定外コストが収益を圧迫する
不動産投資の広告でよく見かける「利回り8%以上」といった数字は、表面利回りであり、実際の収支とは乖離することが少なくないです。たとえば家賃収入が月8万円と見込んでも、空室や維持費用を無視すれば、思うような利益は得られません。特に地方物件では空室リスクが高く、家賃が入らないままローンや管理費の支払いが続く事態も起こりえます。
総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家率は2018年時点で13.6%、2023年には13.8%へと上昇。和歌山県や徳島県では21.2%、山梨県でも20.5%と、地方では空室率が極めて高い地域もあります。こうした状況下で空室が続けば、自己資金で固定費用を賄う必要が生じ、資金繰りに行き詰まる恐れが出てきます。
実質利回りを意識した冷静な判断がカギ
投資の際に見落とされがちなのが、物件の維持管理コストです。購入時には、固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登記費用、仲介手数料といった初期費用が発生し、保有中も修繕費や管理費がかかります。とくに築年数の古い物件では、給湯器の故障や屋根補修といった突発的な修繕で、数十万円単位の出費が必要になることも。
いくら表面利回りが高くても、空室やコストで実質利回りが大幅に下がれば、投資としては失敗となります。初心者ほど「高利回り」の言葉に惑わされがちですが、成功するためには空室リスク・維持費用・老朽化の状態を事前に調べましょう。
現実的な収支シミュレーションを行うことで実質利回りを冷静に見極め、堅実な投資判断が求められます。
3. 節税どころか税負担が増える理由
「不動産投資は節税になる」とよく言われますが、それはあくまで適切な運用と申告がなされた場合の話です。現実には、節税どころか税負担が増えるケースも少なくありません。
例えば、給与所得と不動産所得が合算されることで、課税所得が上がり、住民税や所得税の負担が増すことがあります。特に本業で一定の収入があるサラリーマンの場合、税率が上がり、結果的に手取りが減る可能性があります。
さらに、不動産所得が赤字の場合であっても、損益通算が認められないケースも存在します。減価償却費を計上しすぎて帳簿上赤字に見せかけた場合、税務署から指摘を受けることがあります。税理士の佐藤真一氏は「節税目的で始めた投資が、帳簿の作り方を誤ることで逆に課税リスクを高めてしまうことがある」と警鐘を鳴らしています。
また、副業であることを勤務先に知られたくないと考える方も多いですが、住民税の通知により副業が発覚することがあります。副業禁止の企業に勤めている場合は、これが思わぬトラブルの火種になりかねません。ただし、不動産投資は不労所得と認められる場合があるので、必ずしもその限りではありません。心配な方は事前に確認しておくといいでしょう。
まとめ
副業としての不動産投資には夢がある反面、決して簡単な道ではありません。「時間をかけずにお金が増える」という甘い幻想にとらわれて始めてしまうと、むしろ本業にも悪影響を及ぼす可能性があります。
本記事で紹介したように、不動産投資は時間的な拘束や管理業務、想定外の出費、税金面でのリスクを伴います。副業として成功させるためには、事前の情報収集とシミュレーション、信頼できる専門家との連携が欠かせません。
「安易な副業」が「高い授業料」にならないよう、慎重な判断と計画的な投資を心がけましょう。不動産投資は、知識と準備を備えた者にこそチャンスをもたらすのです。
参考文献
https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000217.html
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