
不動産投資を副業として始める人が増えています。背景には、将来のライフイベントに備えて収入源を多様化したいという意識や、住宅ローンを抱えながらも安定収入を副業で確保したいというニーズがあります。
ただ、不動産副業を続けるうちに課題となるのが税金の負担です。所得税の累進課税で利益が増えるほど納税額も膨らみ、「頑張って副収入を得たのに手元に残らない」と感じる人も少なくありません。この問題を解決する有力な手段が「法人化」です。
本記事では、不動産副業における法人化の意義を整理し、節税メリットや資産形成への効果、さらに実践に向けた考え方を解説します。「どのタイミングで法人化を検討すべきか」を判断できるように、国税庁や総務省などの公的情報も踏まえてわかりやすくまとめます。
1. なぜ不動産副業で法人化が注目されるのか
不動産副業は、比較的少額から始められる一方で、収益が安定すれば長期的に大きなリターンを得やすい仕組みです。特に給与所得に加えて不動産所得を得る会社員や管理職の場合、課税所得が累進課税の高い税率帯に入りやすくなります。
例えば、所得税は330万円を超えると20%、695万円を超えると23%、900万円を超えると33%と段階的に上がっていきます(出典:国税庁「所得税の税率」)。副業での利益が積み重なれば、税負担が一気に増加するのです。
ここで法人化が注目される理由は、法人税率が一定である点にあります。法人の実効税率は概ね23%前後で推移しており、課税所得900万円を超える水準では個人よりも法人のほうが有利になるケースが多いのです。
また、法人化すれば役員報酬という形で所得を分散でき、家族を役員にすることで所得税の負担を下げる方法も取れます。
1-1. 名古屋エリアでの不動産副業と法人化ニーズ
名古屋市やその周辺では、住宅需要が安定しており、マンション経営や戸建て賃貸が副業として人気を集めています。特に30〜40代の会社員世帯は、世帯年収が500〜1,000万円と比較的安定しているため、金融機関からの融資を受けやすい傾向にあります。
その結果、不動産所得が数百万円規模に達し、法人化を検討する人が増えているのです。この地域特有の事情として、再開発エリアのマンション需要や、交通インフラ整備による資産価値の上昇もあります。
こうした長期的な視点を持つ人にとって、法人化は単なる節税だけでなく「資産を次世代にどう引き継ぐか」を設計する手段でもあります。法人化を考える背景には、単なる利益追求ではなく、家族との時間や自己実現といった心理的価値も含まれているのです。
2. 法人化による節税メリットと資産形成への効果
法人化の最大の魅力は、やはり節税効果です。個人事業主のままでは経費として認められる範囲が限定的ですが、法人化すると幅が広がります。例えば役員報酬や退職金制度、社宅の利用など、法人ならではの制度を活用できるようになります。これらは税務上のメリットだけでなく、生活の安定や老後資金の準備にも直結します。
加えて、法人は赤字繰越10年が可能です。個人事業主の場合は3年に限られるため、大規模修繕や一時的な空室による赤字を長期的に吸収できる点は大きな違いです。この仕組みは、不動産経営を安定させたい副業層にとって心強いものといえるでしょう。
資産形成という観点では、法人化は「キャッシュフローの最適化」に寄与します。法人として経費や減価償却を計画的に活用すれば、手元資金を厚くしながら再投資に回せます。その結果、複数物件を段階的に保有するサイクルを回しやすくなるのです。
資産規模の拡大は、副業を単なる収入補助から事業として確立させる重要な一歩になります。
さらに、法人化によって融資の選択肢が広がります。金融機関によっては法人向けの融資枠が用意されており、個人よりも有利な条件を引き出せる場合があります。これにより、投資規模を拡大しやすくなり、長期的な資産形成のスピードを高められるのです。
3. 法人化のデメリットと失敗しないための注意点
法人化には多くのメリットがありますが、同時に無視できないデメリットも存在します。理解が不十分なまま進めると、かえって負担が増す場合があります。
第一に、設立や維持にかかるコストです。株式会社を設立する場合、登録免許税や定款認証費用などで20万円前後が必要です。さらに、毎年の法人住民税は赤字でも最低7万円程度を支払う必要があります。これは「均等割」と呼ばれ、利益がなくても必ず発生します。
第二に、会計処理や決算申告の負担です。個人事業主の青色申告に比べ、法人は複式簿記に基づく精緻な会計が求められます。そのため多くの人は税理士に依頼し、年間で数十万円規模の報酬が発生します。
第三に、将来的な不動産売却で不利になる場合があります。個人は5年以上所有した不動産の売却益が長期譲渡所得となり税率が20%に軽減されますが、法人にはこの優遇がありません。長期保有後に売却益を得る戦略では、法人化が逆効果となることもあります。
4. 不動産副業を法人化するための実践ステップ
法人化を検討するにあたり、どのように進めていけばよいのでしょうか。ここでは、実践的な流れを整理します。
4-1. 収益と課税所得の現状を把握する
最初のステップは、現在の収益状況と課税所得を正確に把握することです。給与所得と不動産所得を合算した額を確認し、累進課税のどの段階に位置しているかを把握しましょう。もし課税所得が900万円に近づいているのであれば、法人化の検討余地が大きくなります。
4-2. 法人形態を選ぶ
法人には株式会社と合同会社があります。株式会社は社会的な信用力が高く、金融機関からの融資も受けやすい傾向があります。
一方、合同会社設立は設立コストが安く、手続きも簡易的で柔軟に運営できます。副業としての不動産投資では、まず合同会社を設立してスタートし、規模拡大に合わせて株式会社化するケースも少なくありません。
4-3. 資金計画と専門家のサポート体制を整える
法人設立には資本金の準備が必要です。実務上は100万円前後からでも可能ですが、金融機関の融資を意識するなら300万円程度を準備するのが望ましいとされます。
また、法人化後の会計・税務処理は専門家に依頼することが現実的です。早い段階で顧問税理士を探しておくと、後の手間やトラブルを防げます。
4-4. 法人名義での融資や契約を進める
法人を設立した後は、法人名義での銀行口座やクレジットカードを開設し、融資や不動産契約を法人名義に切り替えていきます。これにより、経費処理が法人単位で明確になり、税務上の透明性が高まります。
まとめ
不動産副業における法人化は、節税と資産形成を両立させる有力な選択肢です。累進課税による税負担が増える段階で法人化を行えば、役員報酬分散や赤字繰越10年の制度を活用できます。融資枠拡大も中長期的な資産形成を後押しします。
ただし、設立費用や売却税制の不利などのデメリットもあるため、課税所得や投資計画を確認し、相続対策も含め長期視点で判断することが重要です。国税庁や総務省の情報を参考に、税理士へ相談することが成功への近道です。
参考文献
- 国税庁「所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 総務省「司法統計年報」 https://www.stat.go.jp/data/shihou/
- HT税理士法人「不動産管理会社設立のメリット」 https://www.ht-tax.or.jp/kigyou-guide/real-estate-management-incorporation
- ゴールドトラスト「法人化のメリット・デメリット」 https://goldtrust.co.jp/blog/column/01/4416
- 小柳会計事務所「不動産投資と法人化の判断基準」 https://koyano-cpa.gr.jp/nobiyo-kaikei/column/6288
- マネーフォワードBiz「会社設立の基礎知識」 https://biz.moneyforward.com/establish/basic/72920
- セゾンのくらし大研究「不動産投資と法人化の考え方」 https://life.saisoncard.co.jp/money/post/c1838


