
副業としてネットショップを始める人が増える中、「屋号ってどうやって決めるの?」「他人と同じ名前を使ったら問題になる?」といった疑問を持つ方も少なくありません。
屋号は名刺やショップの顔ともいえる大切な存在ですが、実はその名称が商標権と深く関わってくることをご存知でしょうか?
知らずに使った名前が他人の権利を侵害してしまうと、最悪の場合、訴訟や賠償請求といった事態に発展することもあります。
本記事では、副業ネットショップを運営するうえで知っておくべき屋号の基礎知識と、商標権に関する注意点、リスクを回避するための具体策までをわかりやすく解説します。
1. 屋号とは何か?副業での位置づけと注意点
屋号とは
ネットショップを副業として始める際、「屋号」をどうするか悩む方は多いのではないでしょうか。
屋号とは、個人事業主がビジネス上で使う名前のことで、いわば社名のような存在です。たとえば「○○雑貨店」「△△デザイン事務所」などが該当します。
開業届を税務署に提出する際に屋号を記載できますが、これは義務ではなく任意です。本名での活動も可能です。ただし、ブランドづくりや信用構築の観点から、屋号を使うメリットは大きいといえるでしょう。
屋号があることで得られるメリット
副業であっても屋号を使うことで、名刺や請求書、納品書にビジネスらしさが加わります。
また、金融機関によっては「屋号+個人名」の名義で銀行口座を開設できるため、取引先に安心感を与えることができます。
この口座を作るには、開業届に屋号を記載していることが条件になることが多いため、最初から屋号を決めておくことで後の手続きがスムーズになります。
屋号の注意点
屋号は原則として自由に決められますが、いくつかの法的な制限もあります。
たとえば、「株式会社」や「法人」など、法人であると誤認されるような言葉を含めることはできません(会社法第7条)。また、「銀行」「証券」「保険」など、特定の業種に限定された言葉もNGです。
さらに注意したいのが、屋号には法的な保護がないという点です。開業届に記載したからといって、他人が同じ名前を使うのを防ぐことはできません。誰かに真似されても、差し止めたり賠償請求したりする権利は原則としてありません。
逆に、自分が知らずに他人と同じ屋号を使ってしまい、商標権を侵害してしまうケースもあります。この点については次の見出しで詳しく解説しますが、屋号を考える際には「使えるかどうか」だけでなく「他人の権利を侵害していないか」も確認する必要があるのです。
2. 商標権との関係性と登録の必要性
商標権とは
商標権とは、商品やサービスの「名前」や「ロゴ」などを保護するための知的財産権です。特許庁に出願して登録されると、他人がその名称を勝手に使うことを法律で禁止することができます。これは、商標を使っている事業者の信用やブランドイメージを守るための制度です。
一方で、屋号は開業届に記載できるものの、それ自体に法的な保護はありません。屋号を他人と同じように使っても、登録されていない限りは権利として認められないため、トラブルに巻き込まれるリスクがあります。ネットショップで使う名称が、もしすでに登録された商標と被っていた場合、知らずに商標権を侵害してしまう可能性があるのです。
侵害した場合のリスク
商標権を侵害してしまうと、その使用を止められたり、損害賠償を請求されるおそれがあります。特に問題となるのは、「相手が先に登録していた場合」、こちらがいくら先に使っていたと主張しても認められない点です。
たとえば、あるブランド名でSNSやショップを立ち上げ、順調に販売していたとしても、後になって商標登録済みの企業から警告が届けば、すぐに名称を変更しなければなりません。これは副業レベルのショップでも例外ではありません。商標のルールは、事業規模に関係なく等しく適用されます。
商標登録のメリット
屋号やブランド名を商標登録することで、第三者に勝手に使われるリスクを防ぐことができます。商標権があることで、もし模倣があった場合には差し止め請求や損害賠償請求も可能になります。さらに、自分が安心してその名称を使い続けられるという心理的なメリットも大きいでしょう。
副業とはいえ、長く育てていきたいブランドであれば、早い段階で商標登録を検討する価値は十分にあります。登録費用は1区分あたりで出願料・登録料を合わせて5万円〜7万円程度。複数のジャンルにまたがる場合は区分ごとに費用が加算されますが、10年間の権利を得られるため、中長期的なコストとして考えれば決して高くはありません。
登録前の“商標調査”は必ず行う
商標登録を検討する際にまずやるべきことが、「すでに誰かがその名前を登録していないか」を調べることです。
検索時には文字の表記だけでなく、読み方や類似した単語にも注意を払いましょう。同じような音や意味を持つ言葉であっても、審査では“類似”と判断される場合があるため、思わぬ拒絶理由になってしまうことがあります。
商標権は、ブランドを守るための“盾”であると同時に、安心して事業を続けるための“土台”でもあります。副業でも屋号や商品名に力を入れるなら、商標について最低限の知識を持っておくことは、リスク回避のうえでも非常に重要です。
3. 屋号を守るための商標リスク回避術
屋号を安心して使い続けるには、まず他人の権利を侵害していないかを確認することが大切です。出願や登録の有無は、商標検索サイトで事前に調べることができます。似た名前や読み方でも権利侵害になることがあるため、確認は慎重に行いましょう。
長期的に使用する予定がある屋号であれば、商標登録を検討するのも一つの方法です。登録によって法的な保護が得られ、他者による模倣や名称の使用を防ぐことができます。
専門的な判断が必要な場合は、知的財産に詳しい専門家へ相談することで、将来のリスクを抑えることが可能になります。
まとめ
副業としてネットショップを始める際、屋号はビジネスの顔となる大切な要素です。しかし、その名前が商標権と関わることで、知らぬ間に他人の権利を侵害してしまうリスクもあります。
屋号の使用にあたっては、事前の商標調査と、必要に応じた商標登録の検討が重要です。副業でも「知らなかった」では済まされないのが現実。小さな準備が、大きなトラブルを未然に防ぎます。
安心して事業を続けるためにも、屋号と商標に関する基本知識は、今のうちに押さえておきましょう。
参考文献
・商標制度の概要
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/index.html
・商標トラブルの事例と解説