新型コロナウイルスの影響で急速に普及したテレワークは、今や働き方の一つとして定着しつつあります。出勤の必要がなくなったことで、時間や交通費の節約というメリットがある一方、自宅で仕事をすることで生じる新たな負担もあります。その代表例が「光熱費の増加」です。
在宅勤務中は、日中もエアコンを使ったり、照明やパソコン、Wi-Fiルーターなどの電力を常時使用するため、家庭の電気代・水道代・ガス代が上昇したと感じる人は少なくありません。さらに、通信費やデスク・椅子などの備品購入費も家計を圧迫します。
では、このような在宅勤務にかかる費用は何らかの形で補助や控除を受けられるのでしょうか? 本記事では、給与所得者・個人事業主の両方に向けて、家庭で使える控除制度や経費処理の方法をわかりやすく解説します。節税対策に役立てたい方、費用を少しでも取り戻したい方は、ぜひ参考にしてください。

1. テレワークで本当に光熱費は増えた?
テレワークの普及により、自宅で過ごす時間が増えたことで光熱費が上昇したという声が多く聞かれます。特に電気代は顕著で、エアコンやパソコン、照明などの使用頻度が高まったことが主な要因です。実際、ある調査では在宅勤務による光熱費の増加は月に3,000〜4,000円程度とされています。さらに家族と同居している場合は、在宅によって家族の生活時間帯が変化し、昼食の調理によるガス代や水道代も増えるケースがあります。加えて、インターネット回線の増強やモバイルWi-Fiの導入などで通信費がかさむこともあります。
また、自宅でも快適に仕事ができるように椅子やデスク、パソコン周辺機器などの備品を購入する必要があり、その初期費用も見逃せません。これらの支出は仕事に必要な経費とみなされる可能性があり、条件を満たせば税制上の控除や非課税の対象になることもあります。
2. 増えた費用に使える控除制度とは
テレワークでかかった費用を軽減するには、「控除」と「経費」の違いを理解することが大切です。控除は主に会社員が所得から一定額を差し引ける制度で、経費はフリーランスなどが収入から業務に使った費用を差し引けるものです。自分の働き方に合った制度を知り、活用することで、節税につながります。
3. 給与所得者が使える「特定支出控除」
会社員がテレワークにかかった費用を確定申告で控除できる制度に「特定支出控除」があります。これは、業務上必要で、かつ会社から補助されなかった費用を対象とする制度です。通勤費や研修費、職務に必要な書籍、通信費・光熱費などが対象とされ、在宅勤務中に自費で購入したパソコンやネット代の一部も含まれる可能性があります。
ただし、適用には高いハードルがあり、年間の支出が給与所得控除の1/2を超える必要があります。たとえば年収500万円の人なら、約72万円以上の自己負担がなければ申請できません。とはいえ、在宅勤務が長期化している方は、一度試算してみる価値があります。実際に控除を受けるには、勤務先から「職務に必要な支出だった」と証明する書類をもらい、確定申告時に添付する必要があります。
領収書の保管や、私用との区別を明確にするメモも重要です。不明瞭な支出は認められない可能性があるため、慎重な準備が求められます。
4. 個人事業主が活用できる経費と按分
在宅で仕事をする個人事業主にとって、自宅にかかる光熱費や通信費の一部は「家事按分」によって経費として計上できます。たとえば、自宅の6畳の一室を業務専用に使い、1日8時間作業している場合、部屋の面積と使用時間をもとに、電気代や水道代、家賃の一部を経費にできます。按分する割合は合理的な根拠が必要で、使用時間や部屋の広さをかけ合わせた数値を目安にし、算出式や根拠を記録に残しておくことが重要です。
また、通信費も業務に使った分だけを経費に含められます。インターネットやモバイルWi-Fiの料金は按分して処理しましょう。さらに、10万円未満のパソコンや椅子などは「消耗品費」として一括で経費処理できますが、10万円以上のものは減価償却の対象になります。経費の計算や記録には、freeeやマネーフォワードといったクラウド会計ソフトの活用が効果的です。これらのソフトには按分の入力機能も備わっており、日々の記帳作業をサポートしてくれます。事業所得のある人は、支出をこまめに管理しておくことで、確定申告をスムーズに行え、節税にもつながるでしょう。
5. まとめ
テレワークによる光熱費や通信費の増加は、見過ごせない家計負担です。しかし、給与所得者でも個人事業主でも、それぞれに合った控除や経費処理の制度を活用すれば、税金の面での救済が受けられる可能性があります。まずは自分の働き方に適した制度を確認し、使える制度はしっかりと活用しましょう。適切な記録と理解が、節税への第一歩です。
参考文献
- ブリングコンサルティング株式会社「【2023年版】在宅勤務・テレワークの確定申告と税金の話」
https://bring-consulting.co.jp/telework-final-tax-return/ - Remote.com「在宅勤務者のための税控除ガイド:必要経費の種類と申請方法」
https://remote.com/blog/ja-jp/remote-work-tax-deduction-expenses - MONEYイズム(税理士ドットコム)「在宅勤務で使った自宅の水道光熱費、確定申告で経費にできる?」
https://www.all-senmonka.jp/moneyizm/management/76889/ - freee会計「在宅勤務時の家事按分とは?自宅を仕事に使う場合の経費計算」
https://www.freee.co.jp/kb/kb-kakuteishinkoku/apportionment_of_housework/ - 株式会社オービックビジネスコンサルタント「在宅勤務にかかる光熱費や通信費は経費にできる?確定申告のポイントを解説」
https://www.obc.co.jp/360/list/post165 - LIFULL HOME’S「在宅勤務でも確定申告で節税できる?光熱費や通信費はどうなる?」
https://www.homes.co.jp/cont/money/money_00542/ - 国税庁「令和5年分 確定申告特集 よくある質問(Q&A)No.07:家事関連費の必要経費算入」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/shotoku/2023/qa/07.htm